2026年8月4日、愛媛県今治市。FC今治のホームスタジアムで、新しい席のお披露目があった。ゴール裏に約3,500席。収容人数は、5,316人から8,848人になった。
さかのぼって2025年の秋、富山。シーズン最終戦を前に、カターレ富山の社長は、業績の報告にこう書いていた。「お金はあっても選手に選ばれない」。売上は、クラブの過去最高を更新しつつあった。
2026年6月21日、広島県福山市。福山シティFCのホームゲームに、6,319人が集まった。クラブ史上最多だった。その日の観戦は、無料だった。
席は増えた。売上も伸びた。人も集まった。けれど、3つの場面のどれにも、まだ答えの出ていないことが残っている。増えた席は、埋まり続けるのか。お金があっても、選手に選ばれるクラブになれるのか。無料の日に集まった人は、次も来るのか。
前回の記事は、こう締めくくった。欧州の事実から、問いは具体的になってきた。何を持ち、何に変え、誰が決め、誰が問い直し、何が残るのか。次回は、この問いを、日本の地域クラブに持っていく。
今回は、その5つの問いを、日本の3つのクラブに持っていく。FC今治、カターレ富山、福山シティFC。3つのクラブは、置かれた条件が違う。だから、どこが進んでいて、どこが遅れているかは比べない。それぞれが、持っているものを、どう次へつなごうとしているのかを見ていく。
編集部は、一つの見方から、この問いを追う。クラブの成長とは、数字を積み上げることだけではない。数字になった成果を、まだ数字にならない次の価値へとつなげていくことでもある。これは編集部の見方であり、証明された法則ではない。
1. 3つのクラブ、3つの条件
最初に、3つのクラブの置かれた条件を確かめておく。
| FC今治 | カターレ富山 | 福山シティFC | |
|---|---|---|---|
| 2025年の所属 | J2(初めてのJ2) | J2(2014年の降格以来のJ2) | 中国サッカーリーグ(JFLの下の地域リーグ) |
| 運営する法人 | 株式会社今治.夢スポーツ | 株式会社カターレ富山 | 一般社団法人福山シティクラブ |
| 決算の公開 | Jリーグの経営情報開示の対象 | Jリーグの経営情報開示の対象 | Jリーグの開示の対象外。決算は公開されていない |
| ホームスタジアム | 民間で建てたスタジアム(運営は関連会社) | 県の施設 | ホームタウン内にJリーグの基準を満たす施設がない |
今治と富山は、2025年に同じJ2を戦い、決算の期間も同じ(2月から翌年1月)だ。Jリーグは、全クラブの決算を同じ様式で公開している。だから、この2つのクラブの数字は、ある程度並べて読める。
福山は違う。Jリーグに加盟していないクラブで、決算は公開されていない。福山について数字が少ないのは、クラブがまだ何も持っていないからではない。数字を示す制度の外にいるからでもある。この記事では、福山を今治・富山と同じ物差しでは測らない。公開されている事実から、何が起きているかを見る。
もう一つ、注意がある。Jリーグは2026年、特別大会を経て、秋に始まるシーズンへ移った。多くのクラブが決算の時期を変えている。2026年度の数字は、それ以前の年と単純には比べられない。この記事の数字は、主に2025年度までのものだ。
2. FC今治 ― 満員のスタジアムを、広げる
FC今治については、Issue #001で、スタジアムを民間の力で建てた経緯と、地域のコミュニティづくりを見た。今回は、その後の決算と、スタジアムの使い方に目を向ける。
入りきらない、という状態
2025年、FC今治は初めてJ2を戦った。クラブの決算報告によれば、ホームの19試合のうち16試合で、収容率が80%を超えた。平均の来場者は4,800人。シーズン終盤には、チケットの完売が続いた。
運営会社の今治.夢スポーツの売上は、約20億382万円。前の年の148.1%で、過去最高だった。前の2期の赤字を経て、当期純利益は1億1,649万円になった。
伸びた分の中身を見ると、パートナー収入(スポンサー収入)が8億265万円から11億9,958万円へ、約3億9,700万円増えた。増えた売上の約6割にあたる。クラブはその理由を、J2昇格に伴うパートナー数とパートナー料の増加と説明している。
入場料収入も、8,315万円から1億4,104万円に増えた。ただ、売上に占める割合は約7%だ。Jリーグの開示資料から計算すると、2025年度のJ2クラブの平均は約14%。半分ほどになる。
これは、人が来ていないということではない。ほとんどの試合で、スタジアムがほぼ埋まっていた。来たい人がいても、席がなかった。
増資と、増えた席
2025年7月、今治.夢スポーツは、既存の株主を引受先とする増資を行った。クラブが発表した目的は二つある。スタジアムの収容人数を増やす工事などのための資金を調達すること。そして、運営の基盤を強くすることだ。
引受先には、30の企業と個人が並ぶ。今治造船、新来島どっく、浅川造船、檜垣造船といった造船会社。正栄汽船、瀬野汽船、日鮮海運といった海運会社。舶用機器の会社。会長の岡田武史も、その一人だ。今治は、造船と海運の街でもある。
増資の額は、発表に書かれていない。Jリーグの決算一覧では、この1年で、資本剰余金が約10億5,000万円増えている。ただ、これが7月の増資の額と同じなのか、集めた資金のうちどれだけが工事に使われたのかは、公開された資料からは分からない。
確かなのは、目的の一つに掲げられた増席が、その後に実現したことだ。2026年8月、増席が終わり、収容人数は8,848人になった。
スタジアムは、試合のない日にも売上を生んでいる。スタジアムの管理運営を担う今治.夢ビレッジの売上は、スタジアムの利用料、広告、命名権、カフェなどで、2億7,456万円だった。
決算を承認するのは、株主総会だ。会社を代表するのは、代表取締役会長の岡田武史と、代表取締役社長の矢野将文の2人である。
数字が出た後に、書かれていること
決算報告の最後に、クラブは「対処すべき課題」を並べている。
一つは、コミュニティの取り組みを、事業として続けられるようにすることだ。クラブは「次のステップはこの取り組みを事業として収益化し継続していく仕組みを作ること」と書く。Issue #001で見た地域の活動は、まだ、クラブの収益の柱にはなっていない。
もう一つは、増えた8,800席を埋めることだ。開幕戦を満員で迎え、満員の感覚を続ける。そのために、駐車場やシャトルバスといった交通の問題に、一つずつ向き合うとクラブは書く。
過去最高の売上と、黒字が出た年。その決算報告が、次に数字にしなければならないものを、自ら書いている。5,316人の席が満員になったことは、達成だった。同時に、8,848人の席を埋めるという、次の課題の始まりでもあった。
3. カターレ富山 ― 昇格の前に備え、昇格の後に残す
200万円からの出発
Jリーグの決算一覧によれば、2024年1月期のカターレ富山の純資産は、200万円だった。
社長の左伴繁雄は、2021年4月に就任した。報道によれば、主要な株主の外から初めて選ばれた社長で、横浜F・マリノスと清水エスパルスの社長、湘南ベルマーレの常務・専務を務めた経歴を持つ。
昇格の前に、資本を厚くする
2024年10月、カターレ富山は臨時の株主総会と取締役会で、増資を決めた。その時点で、クラブはまだJ3にいた。発表には「J2復帰を目指しております」とある。
増資の考え方は、発表にはっきり書かれている。上のカテゴリーに上がると、売上を引き上げながらの運営になる。そのとき生じる赤字を、一時的に吸収できる資本にしておく。必要なコストに見合う収益を確保できない場合にも備える、というものだ。
新しい株主の選び方も書かれている。「地域で支える」という考えから、原則として、県内で事業を営み、継続して協賛してきた法人。「みんなで支える」という考えから、特定の法人に株を集中させない。11月22日、既存の株主1社(富山地方鉄道)と新しい9社から、4,400万円の払い込みが完了した。
数字が出た年に、半分を残す
2025年、カターレ富山はJ2を戦った。FY2025(2026年1月期)の収益は13億9,600万円で、前の年の152%だった。スポンサー等の収入は2億8,300万円増えた。既存のスポンサーの増額が267件、新しいスポンサーが58件。J2昇格に伴うJリーグからの配分金も、9,000万円増えた。営業損益は5,200万円の黒字だった。
この好決算の理由を、社長は自ら三つ挙げている。J2復帰の効果が想定以上だったこと。チームが最終戦まで残留を争い、シーズンの終わりまで客足が落ちなかったこと。カップ戦の勝ち上がりや、移籍の違約金といった、予算に入れていなかった収益があったこと。
社長は、増えた数字を、すべてクラブの力だとは書いていない。
そのうえで、社長は一つの判断を明かしている。シーズンの途中、利益は1億円ほどになる見込みだった。当初は、そのすべてをJ1を目指す投資に充てるつもりだった。けれど、降格の可能性が現実味を帯びてきた。降格すれば、収入は大きく減る。それでも1年でJ2に戻るために、強化の費用は落とせない。そこで、利益の半分を「フェールセーフ」として次の年に残した。
前回の記事で見たBayern MunichのCEOは、「稼いだ以上は使わない」を鉄則として語っていた。富山の社長が下したのは、それとは違う、もっと手前の判断だ。稼いだものを、いつ、どれだけ使い、どれだけ残すか。その判断を、地域のクラブの社長が、決算の報告で自ら説明している。
お金があっても、選ばれない
数字が出た年に、届かなかったものもある。
2025年の夏、クラブは補強の予算を確保していた。けれど、獲得を目指した多くの選手に断られ続け、その予算を使い切れなかった。社長は第3四半期の報告に、「『お金はあっても選手に選ばれない』弊社ブランド力の脆弱さをあらためて突きつけられた思いでおります」と書いた。
売上は過去最高だった。それでも、選手がこのクラブを選ぶ理由は、まだ十分ではなかった。お金は、数字になる。選ばれる理由は、すぐには数字にならない。
2026年2月、クラブはファン・サポーターに向けたカンファレンスを開いた。公開された議事録によれば、社長は、J1に上がったときにクラブが記録しなければならない売上を、約20億円と逆算してみせた。入場者数やユニフォームの販売数にも、目標を置く。これは目標と試算であり、実績ではない。ただ、まだ数字にならないものを、数字の目標に置き換えて共有しようとしていることは分かる。
4. 福山シティFC ― Jリーグの外で、拠点をつくる
地域リーグのクラブが、先に投資したもの
福山シティFCは、Jリーグにも、その下のJFLにもいない。中国地方の地域リーグに所属し、JFLへの昇格を目指している。2025年、昇格を懸けた全国地域サッカーチャンピオンズリーグに4年連続で出場した。1次ラウンドは2勝1敗だったが、グループ2位で敗退し、昇格には届かなかった。
その一方で、クラブは、上のリーグに上がる前に投資をしている。福山市が公募した市の用地(浄化センターの跡地)の借り受け先に選ばれ、10年間借りて、2023年に自前の練習場の建設を始めた。クラブの発表によれば、複数の金融機関からの借入れとリースで、総額3億2,000万円を調達した。
スタジアムがない、という条件
福山には、Jリーグの基準を満たすスタジアムがない。クラブの説明によれば、いま主に使う市の陸上競技場は、ほかの競技との兼ね合いで、過去6シーズンに公式戦を5試合しか開けていない。Jリーグの基準に合わせるための改修には、約20〜30億円かかるという試算もある。
2025年7月、クラブは新しいスタジアムの構想を公表した。第一期は9,000〜10,000人規模を前提に検討し、J1に上がるときには15,000人規模への拡張を視野に入れる。税金だけに頼らない整備と運営を、官民の連携で目指すという。ただし、これは構想だ。建設地も、資金も、公式にはまだ決まっていない。
6,319人を、どう読むか
2026年6月21日、福山シティFCは、収容1万人ほどの競技場を満員にする企画を初めて開いた。縁日やグルメのコーナーを設け、試合の前には、サッカー・ワールドカップのパブリックビューイングも行った。観戦は無料だった。集まったのは6,319人。それまでの最多は、2023年7月の3,889人だった。
この数字を、どう読むか。無料の特別な企画だった以上、6,319人を、お金を払って毎試合来る人の数として読むことはできない。
けれど、6,319人は、確かに記録された数字だ。1万人という目標を掲げ、地域に呼びかけたとき、それだけの人が、地域リーグのクラブの試合に足を運んだ。クラブ史上最多という事実は、無料だったことで消えるわけではない。
まだ分からないのは、その先だ。この日に集まった人が、お金を払って毎試合来る観客や、クラブを支える人に変わるのか。それは、まだ数字になっていない。
福山にも、確かめられた成果はある。自前の練習場を持ち、JFL昇格を懸けた全国大会に4年続けて出場し、クラブ史上最多の観客を集めた。決算を公開していないからといって、成果がないわけではない。福山は、確かめられた成果を、まだ数字にならない次の価値へつなげようとしている途中にいる。
クラブは2030年に向けた指針で、「J1の舞台で闘う」こと、そして、スポーツを通じたまちづくりに貢献することを掲げている。10月24日からは、全国社会人サッカー選手権に臨む。昇格への道のりは、まだ続いている。
5. 誰が、外から問い直すのか
前回の記事は、欧州のクラブで、決定を問い直す仕組みを見た。Barcelonaでは会員の代表が集まる総会が、Bayern Munichでは監査役会が、その役割を担っていた。
日本の地域クラブでは、その仕組みの一部を、リーグが担っている。
Jリーグは、加盟する全クラブの決算を、同じ様式で毎年公開している。今治と富山の数字を並べて読めるのも、そのためだ。さらに、J1・J2のクラブライセンスは、Jリーグから独立した第三者の機関が、弁護士・公認会計士・有識者によって判定する。審査の基準には、施設や組織とともに、適法かつ適正な決算や監査の実施といった財務の項目が含まれている。
クラブの側にも、問い直しを受ける仕組みをつくろうとする動きがある。カターレ富山は、四半期ごとに業績を公開している。クラブはそれを「企業ガバナンス強化・透明性向上の一環」と位置づける。予算は取締役会で決め、その中身を、ファン・サポーターの前で説明する。
福山シティFCは、Jリーグの開示とライセンスの外にいる。運営するのは一般社団法人で、株式会社のような株主はいない。
外から計画を審査される場面はあった。練習場の用地は、福山市の公募で借り受け先に選ばれて、初めて借りられた。スタジアムの構想も、行政や地域の理解がなければ前に進まない。
ただ、公募での選定は、ある時点で計画を審査する関門だ。毎年の決算を同じ様式で公開させ、ライセンスで審査し続けるJリーグの仕組みとは性質が違う。福山の経営を、法人の内外で誰が継続的に見ているのかは、公開された資料からは確認できなかった。
6. 数字が出た後に、残るもの
3つのクラブを、もう一度並べてみる。
| 数字で確かめられたこと | まだ数字になっていないこと | |
|---|---|---|
| FC今治 | 満員に近いスタジアム、過去最高の売上、黒字 | 増やした席を埋め続けること、コミュニティの取り組みを事業にすること |
| カターレ富山 | 昇格の年の収益152%、営業黒字、利益の一部を残す判断 | 選手に選ばれる理由、J1で必要な売上 |
| 福山シティFC | 自前の練習場、全国大会への4年連続出場、クラブ史上最多の6,319人(無料の企画) | JFL昇格、スタジアム、お金を払って毎試合来る観客 |
今治と富山では、昇格の年に大きく伸びたのは、スポンサー収入だった。どちらのクラブも、地域の企業との関係を、協賛だけでなく出資という形にも変えていた。今治では、増席工事などを目的に掲げた増資に造船や海運の企業が応じ、富山では、県内で協賛を続けてきた企業が株主に加わった。
ただ、ここから「日本の地域クラブでは、観客より先に、企業との関係が数字になる」とまでは言えない。J2全体でも、スポンサー収入は売上の約半分を占める。昇格すれば、多くのクラブでスポンサー収入は増える。今治と富山の増収も、クラブ自身が説明するように、昇格の効果を含んでいる。昇格がもたらした数字と、クラブが自ら変えた成果を、外から見分けることは難しい。
それでも、3つのクラブに共通して見えたことがある。数字になった成果のところで、物語は終わっていない。
今治は、満員という成果の先に、増やした席を埋めるという次の課題を自ら書いた。富山は、過去最高の売上の年に、お金では選ばれない現実を書いた。福山は、練習場と、史上最多の観客という成果を、JFL昇格や毎試合来る観客という次の価値へつなげようとしている。
数字は、そのときクラブが示せたものの一部だ。クラブは、数字になった成果を手がかりに、まだ数字にならない次の価値をつくろうとしている。
Editor's Perspective ― 成長は、数字を積み上げることだけではない
日本の地域クラブでも、持っているものを別の何かに変える動きは始まっている。協賛は出資に変わり、市の用地は練習場に変わった。満員のスタジアムは、増席へと進んだ。
そのうえで、編集部が今回もっとも強く感じたことがある。クラブの成長とは、数字を積み上げることだけではない。数字になった成果を、まだ数字にならない次の価値へとつなげていくことでもある。
満員を達成したクラブは、増やした席を埋め続けられるかを問われている。過去最高の売上を出したクラブは、選手に選ばれる理由を探している。史上最多の観客を集めたクラブは、その人たちが次も来る理由をつくろうとしている。数字になった成果は、終わりではなく、次の価値への手がかりになっている。
生み出した価値を、どう次の可能性へつなげていくのか。この問いは、どの段階のクラブにも残っている。
この見方には、弱いところがある。今回見たのは3つのクラブだけで、いずれも公開された資料から読める範囲に限られる。数字になった成果が、そのまま次の成長につながり続けたクラブがあれば、この見方は修正が要る。そして、今治と富山の伸びのどこまでが昇格の効果で、どこからがクラブの判断の成果なのかは、分からないままだ。だから、これは答えではなく、クラブを見るための問いとして置いておきたい。
#0から#6まで、欧州と日本のクラブを見てきた。大きな資本の物語も、資本が入る前の積み重ねも、失速も、再建も、意思決定も見た。では、ビッグクラブになる前に、クラブは何をつくっておくべきなのか。次回、Issue #003の最後に、その問いを考える。
あなたへの問い
あなたの街のクラブは、いま何を数字で示せているだろう。そして、まだ数字にならないけれど確かにあるものは、何だろうか。





