Issue #003は、一つのランキングから始まった。

Deloitteが2026年1月に発表した「Football Money League 2026」。サッカークラブを、2024/25シーズンの売上の大きさで並べたランキングである。その上位10クラブが、まだ何者でもなかった時代まで戻り、どうやって大きくなったのかを、8本の記事で追ってきた。

追いかけるうちに、別の問いが生まれた。

あのランキングは、クラブの何を測っていたのだろう。

クラブが大きくなるとは、何が大きくなることなのか。Issue #003の最後に、この問いを考えたい。

1. 資本と商業によって大きくなったクラブ

最初に、認めておきたいことがある。

ビッグクラブは、資本と商業の力で大きくなってきた。

#1で見たChelsea(Abramovich期)では、オーナーの貸付が、選手と練習施設に変わった。所有と大きな判断をオーナー一人に委ねる形で、クラブは上位に達した。Real Madridは、旧練習場の土地を売って債務を解消した。Barcelonaの経常収入は、2025/26年度に初めて10億ユーロを超えた。

クラブの収入は、どこから来ているのか。イングランドのプレミアリーグについて、リヴァプール大学の研究機関、Heseltine Instituteが2025年10月に出した政策ブリーフは、クラブの収入の大半は、試合に通う支持者や、ユニフォームなどへの支出からではなく、国内外の放映権収入から来ていると書いている。

では、地域の人々との関係は、クラブの成長にどれだけ寄与したのか。Issue #003の調査では、それを確かめることができなかった。収入の内訳から、関係の寄与を切り分けた資料には出会わなかった。寄与がなかった、という意味ではない。今回の資料では、検証できなかったということだ。

この限界を、最初に書いておきたい。

2. 規模だけでは説明できなかったクラブの未来

それでも、Issue #003で見た事実には、規模の大きさだけでは説明できないものがあった。

Barcelonaは、経常収入が10億ユーロを超えた年にも、純資産はマイナス1億6,800万ユーロだった。クラブは、その主な理由を、スタジアム改修に関わる利息の影響だと説明している。収入の大きさは、財務の安定を約束していなかった。

#3で見たAnzhiには、大きな資本が入る前から、1万人を超える観客がいた。資本が縮小された後、クラブはプロとしての活動を終えた。存続を訴える支持者の声は報じられている。けれど、支持者がクラブの取得や経営への参加を組織的に試みた記録は、調べた英語の資料の範囲では見つからなかった。試みがなかったのか、記録に届いていないだけなのかは、分からない。

Portsmouthでは、経営破綻の手続きを経て、支持者の団体がクラブを取得した。当時の報道によれば、2,300人を超える支持者が1口1,000ポンドを出し合った。4年後、支持者たちは投票で、クラブを外部のオーナーに渡すことを選んだ。そのときも、クラブの名前、色、本拠地を変えるには自分たちの同意が要るという条件を残した。

二つのクラブは、国も、制度も、経営の環境も違う。だから、支持者の行動の違いが二つのクラブの行方を分けた、とは言えない。言えるのは、Portsmouthでは、支持者の行動が記録に残り、それがクラブの所有にまで届いたということだ。

Chelseaの土地と名前は、ファンが株主になっている組織が持っている。Leedsでは、スタジアムが2004年に売られ、約20年、クラブの所有から離れていた。その間に支持者たちは、売却の場面で行動するための時間と機会を、制度によって確保した。

クラブの未来を左右してきたのは、資本の大きさだけではなかった。クラブを支え、関わり、ときには未来を守ろうと動いた人たちがいた。そして、そうした人たちの姿は、売上のランキングには表れない。

3. クラブが人々にとって持つ存在価値

では、人々は、クラブの何に価値を感じているのか。

ここでは、三つのことを分けて見たい。クラブがいま、人々に提供している価値。クラブが大きくなる前から持っていた価値。そして、その価値がクラブの成長に役立ったのかどうか。三つ目は、第1章で書いたとおり、今回の資料では確かめられない。

Bayern Munichは、2025年11月の年次総会で、会員が43万2,500人に達したと発表した。前の年の総会では、38万2,000人だった(ブンデスリーガ公式サイトの報道による)。それより前の2023年11月、会長のHerbert Hainerは、当時の会員の増加について、こう語っている。「新しい会員の約78%が、Bayernの家族の一員になりたいことを理由に挙げた。彼らにとって、共同体は、競技上の成功と同じくらい大切だ」。

この発言から分かるのは、2023年当時の新しい会員が挙げた理由までだ。その気持ちとクラブの強さの、どちらが先なのかは分からない。

Barcelonaは、クラブの目的を定款に書いている。第4条は、競技に加えて社会や文化の活動を挙げ、それを、カタルーニャと世界でクラブが持つ代表性を保つためのものだとする。その代表性は、「会員、市民、カタルーニャへの忠誠と奉仕の、恒常的な伝統の結果」だという。これはクラブ自身の言葉であり、カタルーニャの人々の評価ではない。それでも、このクラブが、自分たちの存在の理由を、競技の外にも置いていることは分かる。

クラブが大きくなる前から、そこにあった価値もある。#2で見たLiverpoolには、2部にいた時代にも、平均3万5千人を超える観客がいた。Kopという名前と、「You'll Never Walk Alone」を歌う慣習は、クラブがいまの規模になるずっと前に生まれ、いまも続いている。#4で見たAthletic Clubは、1911年から、地元の選手だけで戦っている。クラブによれば、2018年の時点で、バスク地方の下部クラブとの協定は250を超えていた。

先のHeseltine Instituteのブリーフは、こうも書いている。プレミアリーグのクラブのアイデンティティは地域と強く結びついていて、クラブは「財務上はともかく、文化的には」、最も熱心な支持者に依存している。

少なくともプレミアリーグのクラブについて言えば、収入の内訳の中心は、放映権である。けれど、クラブがそのクラブであることの理由は、収入の内訳とは別の場所にもある。

それは、地域の支持者が経済的に小さな存在だという意味ではない。#4で見たAthletic Clubでは、約4万4千人の会員からの収入が、売上の約16%を占めている。お金としての支えと、そのクラブであることの理由。地域の支持者は、その両方を担いうる。

4. 大きくなることで生み出せるようになった価値

大きくなったクラブは、クラブの外の人たちに、何を届けられるようになったのか。

Liverpoolの公式慈善団体、LFC Foundationの2023/24年度の報告によれば、財団は1年で、リヴァプール都市圏と海外の12万7,000人以上と活動した。参加者の59.5%は、国内で最も困窮度の高い20%の地域に住む人だった。

その中身は、試合を観ることとは違う。Heseltine Instituteのブリーフによれば、財団は199の学校で、週に195回のサッカーのセッションを行い、Anfieldとその周辺で活動する地域の団体を支えている。財団の報告には、若者への就労の訓練や、子どもたちへの歯の検診も並ぶ。クラブの存在が、スタジアムの外で、学ぶ機会や、働くための準備や、健康の支えにつながっている。

財団は、クラブの公式の慈善団体として活動している。ただし、クラブの資金や知名度が、財団の活動の広がりにどれだけ関わっているのかは、今回の資料では確かめていない。財団の活動がクラブを大きくした、とも言えない。

日本の地域クラブでも、クラブの外の人との関係は、すでに形になり始めている。#6で見たカターレ富山は、昇格を目指す増資で、「地域で支える」「みんなで支える」という考えから、県内で継続して協賛してきた企業を、原則として新しい株主に迎えた。FC今治の増資には、造船や海運の地元企業が応じた。

一方で、今治は、地域で続けてきたコミュニティの取り組みを「事業として収益化し継続していく仕組みを作ること」を、次のステップに挙げている。クラブの外に価値が生まれていても、それがクラブの数字になるとは限らない。逆も言える。クラブの数字が大きくなっても、それだけでは、外の誰かに何かが届いたことにはならない。

5. 成長の利益と負担を、誰が引き受けるのか

大きくなることには、もう一つの面がある。負担である。それは、二つの場所に生まれる。

一つは、クラブ自身の将来だ。

#5で見たManchester Unitedは、2005年の買収の際の借入を、クラブ自身に負わされた。2026年6月期の総債務は6億8,900万ポンド、支払った利息は3,890万ポンドである。クラブの商業的な強さが生んだお金の一部は、毎年、利息として貸し手へ向かっている。

Barcelonaは、これから25年間に入ってくる放映権収入の25%を、6億6,700万ユーロで譲り、その資金をいま受け取った。譲った収入は、25年間、投資会社Sixth Streetが51%、Barcelonaが49%を持つ会社に入る。当時の金融業界誌によれば、Leedsは2001年、将来25年間の入場料収入を担保に、6,000万ポンドの債券を出した。

どちらも、将来の収入を前倒しで使う選択だった。その分、将来のクラブが使える収入は減り、経営の選択肢は狭まりうる。その負担を引き受けるのは、決めた時点のクラブではなく、何年も先のクラブである。

もう一つは、クラブの外である。

Heseltine Instituteのブリーフは、クラブの社会的な価値を考えるとき、クラブの地域プログラムが直接生む価値と、「地域の機関としてのクラブの運営全体と、その良い影響と悪い影響」を区別すべきだ、という指摘を紹介している。同じブリーフは、クラブで間接的に働く警備やケータリングの人たちの賃金と労働条件への懸念、そして、国際資本が入ったクラブでは、サッカーで生まれたお金が地域で循環せずに外へ出ていくという懸念にも触れている。

ブリーフはまた、多額の公的補助を受けながら地域経済に良い影響を与えられなかったスタジアムの開発が、少なくないという研究も紹介している。Wembleyでは、再開発の後に新しい商業施設が開いた。その一方で、地価が上がり、長くその地域にいた事業者や住民が押し出されることへの懸念が生まれた。

編集部は、これらの選択のどれも、間違いだったとは言わない。クラブが大きくなるために、誰かが何かを引き受けること自体は、避けられないのかもしれない。ただ、クラブの成長が語られるとき、その負担を引き受けた人の名前は、たいてい語られない。

Editor's Perspective ― クラブの大きさは、一つではない

ここからは、編集部の見解であり、証明された法則ではない。

クラブの大きさは、一つではない。

一つは、クラブが持つものの大きさだ。売上、資本、競技力。ランキングが測っているのは、こちらである。

もう一つは、クラブのために、クラブとともに動く人の広がりだ。会員として名前を連ねる人。危機のときに出資する人。クラブの名前や本拠地を守る条件を残す人。地元の企業として、協賛から一歩進んで株主になる人。

Issue #003で見た限り、この二つは、別々に動いていた。収入が大きくても、財務の安定は約束されなかった。観客が多いことと、危機のときに組織的な行動が記録に残ることも、同じではなかった。そして、クラブの未来が揺らいだ場面で、記録に残る形で働いたのが、二つ目の大きさだった例がある。

だから、編集部は、クラブの成長を、売上や資本や競技成績だけで評価しないことを提案したい。その代わりに、二つの問いを置く。

その成長によって、クラブの外にいる人々に、どんな価値が生まれたのか。

その成長を実現するために、誰が、どんな負担を引き受けているのか。

この二つを並べたとき、初めて、そのクラブが「大きくなった」と言えるのかどうかを、自分たちの言葉で判断できるのではないか。これが、Issue #003を通して、SIM編集部がたどり着いた成長の見方である。

この見方には、弱いところがある。地域や社会に届いた価値を示す数字の多くは、クラブ自身の算定であり、外から確かめられたものは少ない。人々との関係が、クラブの成長にどれだけ寄与したのかも、今回は検証できていない。そして、地域にとって価値のあるクラブが、ビッグクラブになるとは限らない。Athletic Clubは、地域との結びつきを競技のあり方にまで組み込んだクラブだが、売上の規模では、ランキングの上位にはいない。

それでも、編集部は、この見方を手放さない。ビッグクラブという言葉が、売上の大きさだけを指すなら、Issue #003で見たクラブの未来を支えたものの多くは、その言葉の外に置かれてしまうからだ。

クラブが社会に生み出す価値も、クラブだけでつくられているわけではない。Liverpoolの財団は、199の学校に入り、Anfieldの周辺で活動する地域の団体を支えながら、子どもたちがボールを蹴る時間や、健康の支えをつくっている。富山では、協賛を続けてきた県内の企業が、株主としてクラブの次の挑戦に加わった。クラブの価値は、クラブとそこに関わる人たちが、一緒に生み出している。編集部は、そう考えている。

ビッグクラブは、どうつくられるのか。資本と商業が、クラブを大きくしてきた。けれど、そのクラブがクラブであり続けるために動いた人たちも、そのクラブの大きさの一部だった。

あなたへの問い

あなたのクラブが大きくなったとき、新しく何かを受け取れるようになる人は、誰だろう。

そして、その大きさを支えるために、何かを引き受けることになる人は、誰だろうか。