2026年3月、FC Barcelonaの会員は、会長を選び直した。投票した会員は48,440人。現職のJoan Laportaが68%を得て、再選された。
同じ年の9月、クラブは決算を発表した。売上は初めて10億ユーロを超えた。会員の代表が集まる総会は、その決算を88%の賛成で承認した。
同じ発表には、もう一つの数字がある。純資産、マイナス1億6,800万ユーロ。クラブが持っているものより、負っているもののほうが大きい状態だ。
支持も、売上もある。それでも、この数字がある。その間には、何があったのか。資本が、いつ、どんな形で入り、何に使われたのか。そして、それを決めたのは誰だったのか。
前回の記事は、こう締めくくった。使い方を選ぶことは、資本の代わりにはならない。資本の使い道を決める。
今回は、その「決める」に目を向ける。Barcelonaを中心に、Bayern Munich、Manchester United、Liverpoolの事実を並べながら、三つの問いを追う。
誰が、クラブの未来を決めるのか。 誰が、その決定を問い直せるのか。 その選択によって、クラブに何が残るのか。
編集部は、一つの見方から、この問いを追う。クラブの成長を決めるのは、資本の大きさだけではない。その資本で、どんな未来を選ぶかだ。これは編集部の主張であり、証明された法則ではない。
1. ここまでの5本が残したもの
Issue #003は、ビッグクラブがどうつくられるのかを追ってきた。
巨大なクラブにも、始まりがあった。大きな資本が、選手や施設に変わり、クラブを加速させた。資本が入る前から、人々が積み上げてきたものがあった。資本を得ても、失速したクラブがあった。巨大ではないクラブも、手元にあるものを、別の何かに変えていた。
ここまでで、ある程度は説明できる。クラブは、持っているものを何かに変え、その結果が信頼を呼び、次の資本を呼ぶことがある。
けれど、それだけでは見えないことも残った。同じように資本を得ても、その先の姿はクラブごとに違った。その違いは、資本の量だけでは説明しきれない。資本を前にして、誰が、何を選んだのか。今回は、そこを見ていく。
2. 誰が、クラブの未来を決めるのか
Barcelona ― 会員が選び、会員の代表が承認する
Barcelonaは、会員がクラブを持っている。会員は会長を選ぶ。会員の代表が集まる総会は、決算と予算を承認する。将来の収入の一部を譲るといった大きな取引も、総会が承認してきた。
クラブの未来を決める人を、クラブを持つ人たちが選ぶ。それが、Barcelonaの形だ。
Manchester United ― 持つ人と、競技を運営する人
Manchester Unitedの形は違う。
米国の規制当局に提出された2026年6月期の年次報告書によれば、Glazer家の6人が支配する信託などが、議決権の67.91%を持つ。INEOSが持つのは28.95%だ。
2023年12月、クラブは、INEOSの会長Jim Ratcliffeによる株式取得とあわせて、INEOSが取締役会の要請を受け、男女のトップチームとアカデミーを含むフットボール運営の管理責任を委ねられると発表した。
クラブを持つ人と、競技の判断を担う人が、契約によって分けられたことになる。
Bayern Munich ― 会員のクラブと、企業の株主
Bayernは、二つの層を持つ。2014年のクラブの発表によれば、競技を担う株式会社の75%を、会員のクラブが持っていた。残りは、adidas、AUDI、Allianzの3社が、8.33%ずつ持っていた。Allianzの出資は、クラブの執行委員会と諮問委員会が全会一致で承認したと、当時の会長は述べている。
2025年の年次総会で、CEOのJan-Christian Dreesenは、執行役員会と監査役会の建設的な協力を、クラブの強さの理由の一つに挙げた(クラブ公式サイトの報告による)。
3つのクラブを並べると、「誰が決めるのか」に一つの答えはない。誰が持つのか。誰が日々の判断をするのか。その組み合わせが、クラブごとに違う。そして、決めた人の判断は、どこかで確かめられ、問い直される必要がある。
3. 誰が、その決定を問い直せるのか
定款に書かれた、問い直しの仕組み
Barcelonaには、決定を問い直す仕組みが、定款に書かれている。
クラブが公開している2021年12月版の定款によれば、理事会が借り入れたり債券を出したりできる額は、年間の収入予算の10%まで。それを超えるには、財務委員会の報告を経て、総会で3分の2の賛成を得なければならない。
同じ定款の第67条は、さらに踏み込む。理事会は、純資産をプラスに保つよう求められる。損失が出れば、続く2年で取り戻す。純債務は、本業で稼ぐ力を示す利益(EBITDA)の2倍を超えないよう努める。施設への特別な投資の資金は、この計算に含めないとされている。これらが2年続けて守られなければ、理事会は解散し、管理委員会に置き換わる。
決める人を選ぶだけでなく、その決定が一定の線を越えたとき、立ち止まらせる仕組みも、会員のクラブは持っていた。
将来の収入を、いま受け取る
その仕組みのもとで、大きな決定が下されてきた。
2022年、Barcelonaの総会は、スペインのリーグの放映権収入の一部を譲渡することを承認した。クラブの発表によれば、2回の譲渡を合わせて、放映権収入の25%を、25年分、6億6,700万ユーロで譲った。譲渡先は、投資会社Sixth Streetが51%、Barcelonaが49%を持つ会社で、25年後に買い戻す選択権がついている。2回目の譲渡の承認は、賛成90%だった。
同じ総会で、2022/23シーズンの予算も承認された。見込んだ税引後利益は2億7,500万ユーロ。クラブ自身が、その年の売上の記録は、放映権の譲渡4億ユーロによるものだと説明している。
これから25年かけて入ってくるはずの収入の一部を、いま受け取り、いまの予算に入れる。その決定を、会員の代表が承認した。
この選択は、Barcelonaだけのものではない。当時の金融業界誌によれば、Leeds Unitedは2001年、将来25年間の入場料収入を担保に、6,000万ポンドの債券を出している。クラブ史の整理によれば、当時のLeedsは、会長のもとで欧州大会の収入を見込み、借入を重ねていた。一方は会員の代表が承認し、もう一方は会長のもとで進んだ。決め方は違っても、将来の収入を先に使うという同じ選択が起きている。
問い直す仕組みを、いったん外す
2021年10月、Barcelonaの総会は、第67条を暫定的に停止した。同じ定款には、こう書かれている。2020/21年度の決算を承認した時点の損失と債務の結果として、第67条は、純資産がプラスに戻るまで効力を持たない。当時の報道によれば、賛成265、反対54、白票18だった。
当時の報道によれば、理事会は、第67条の求める条件は現状では達成できないと説明していた。条文をそのまま当てはめれば、理事会は解散することになる。
編集部は、この停止を、会員や理事会への批判の材料とは考えない。クラブを動かし続けるための、一つの選択だったと受け止めている。そのうえで、ここに一つの構造を見る。決定を問い直す場である総会は、問い直す仕組みそのものを外すことも決められる。問い直す力と、それを外す力は、同じ場所にある。
2026年9月の決算で、純資産はまだマイナスだった。条文が停止の終わりとする「純資産がプラスに戻る」状態には、届いていない。ただし、2021年12月版より後の定款の改正の有無と、この規定の現在の扱いを、クラブの公式な資料で確かめることはできなかった。
クラブの外からの問い直し
問い直しは、クラブの内側だけで起きるわけではない。
Barcelonaは2024/25年度、欧州サッカー連盟(UEFA)の財務規則に違反したとして、UEFAとの合意により1,500万ユーロの罰金を受けている(クラブの発表による)。2026年9月には、「1対1」の財務ルールを守っていると発表した。
2025年の総会で、財務担当役員のFerran Olivéはこう述べている。「過去の過ちを繰り返さないよう、極めて慎重であり続けなければならない。競技への支出は、管理し続けなければならない」。
自分たちに課す線
Bayernは、自分たちの判断の基準を、自分たちの言葉で掲げている。
2025年の年次総会で、Dreesenは「稼いだ以上は使わない」を鉄則として繰り返した。「どんな移籍でもする余裕はある。だが、すべての移籍をしたいわけではないし、どんな値段でもするわけではない」。そして、こうも語った。「ポケットから数百万をすっと出してくれる人は、私たちにはいない」(いずれもクラブ公式サイトの報告による)。
ただし、ここから言えることには限りがある。この基準が成功を生んだのか、それとも成功していたから基準を守れたのかは、これらの事実からは分からない。クラブを取り巻く条件の違いも、ここでは比べられていない。
4. その選択によって、クラブに何が残るのか
資本を前にした選択は、三つのことを決める。資金がどんな形で入るのか。何に使うのか。そして、生まれた価値が誰のものになるのか。この三つは、似ているようで、別のことだ。4つのクラブで分けて見てみる。
| 資金の入り方 | 使い道(発表・記載の範囲) | 誰に何が帰属するか | |
|---|---|---|---|
| Bayern(2014年) | 企業(Allianz)による増資の引き受け。1億1,000万ユーロで8.33% | スタジアムの残りの債務の返済と、育成施設の建て直しに充てる計画と発表 | Allianzは株主になった。会員のクラブは75%を持ち続けた |
| Liverpool(2024年5月期) | オーナー側のグループ会社の中で株式による投資があり、その後クラブに資金が入った。クラブ側では、利息のない、求められれば返す貸付として記録(7,140万→1億9,870万ポンド) | 決算書は、この貸付を個々の支出と結びつけて書いていない | クラブは、グループ会社に対する返済の義務を負う |
| Manchester United | 2005年の買収の際の借入がクラブ側に負わされた(#1)。2024年、INEOSが新株を引き受け、3億ドルを出した | 3億ドルは、Old Traffordへの将来の投資を可能にするためとされた | 2026年6月期の総債務は6億8,900万ポンド、支払った利息は3,890万ポンド。新株の引き受けで、INEOSは株主になった |
| Barcelona(2022年) | 将来25年分の放映権収入の25%を、6億6,700万ユーロで譲渡 | 2022/23の予算に計上(クラブの説明) | 譲った収入は、25年間、Sixth Streetが51%、Barcelonaが49%を持つ会社に入る。買い戻しの選択権がある |
同じ「資本が入った」でも、中身はまったく違う。株主として迎えるのか。返す約束のある貸付なのか。将来の収入を譲るのか。
使い道も違う。Bayernの出資は、債務を減らし、施設をつくる計画に向けられた。Liverpoolの決算書では、同じ期間に有形固定資産が増え、その主な理由はAnfield Roadスタンドの拡張だった。翌期について、クラブは、このスタンドが初めて1年を通して使われ、入場料収入を支えたと説明している。ただし、先の貸付がこの拡張に使われたとは、決算書には書かれていない。
そして、誰のものになるのかも違う。Manchester Unitedでは、毎年の利息が貸し手へ向かう。Barcelonaでは、譲った収入は、25年間、Barcelonaが49%、外部の投資会社が51%を持つ会社に入る。純資産のマイナスは主に、スタジアム改修(Espai Barça)の資金に関わる利息の影響だと、クラブは説明している。
Ratcliffeは2023年、こう語っていた。「クラブの商業的成功により、最高水準でタイトルを争うための資金は、常にあった。だが、その潜在力は近年、十分に引き出されていない」。資金があることと、それを成果に変えることは、同じではない。少なくとも、競技の運営を担うことになった人は、そう語っていた。
ただし、利息や譲った収入を抱えるManchester UnitedとBarcelonaも、売上では欧州の上位にいる(#1)。資本の形が、成長を止めたとまでは言えない。
5. 一つの式にはならない
ここまでの事実は、一つの式には収まらない。
#1で見たChelsea(Abramovich期)は、所有と大きな判断をオーナー一人に委ねる形で、上位に達した。#1で見たReal Madridの土地の売却は、行政による用途の変更という、クラブの外の判断に支えられていた。時期や偶然、公共の判断も、クラブの成長に関わっている。
それでも、5本の記事を通して見えてきたことはある。資本は、信頼だけで集まるとは限らない。将来の収入を差し出すことでも、集めることができる。そのとき、クラブは、未来の一部を、いまに持ってくる選択をしている。その選択が正しかったかどうかは、何年も経ってからしか分からない。
Editor's Perspective ― どんな未来を選ぶか
ここからは、編集部の見解であり、証明された法則ではない。
クラブの成長を決めるのは、資本の大きさだけではない。その資本で、どんな未来を選ぶかだ。
4つのクラブは、同じように大きな資本に触れながら、違う未来を選んできた。Bayernは、2014年時点で、企業を株主に迎えながら、会員のクラブが過半を持ち続ける形を選んだ。Manchester Unitedは、持つ人と競技を運営する人を分ける形を選んだ。Barcelonaは、会員の代表の承認を経て、将来の収入の一部をいまに持ってくる道を選んだ。どれが正しいかを、この記事は決めない。ただ、その選択のたびに、資金の入り方と、使い道と、何がクラブに残るのかが、決まっていった。
意思決定は、成長をもたらす力でもあり、成長の行き先を決める力でもあるのだと思う。だからこそ、誰が決めるのか、誰がそれを問い直せるのかが、大事になる。Barcelonaの定款には、問い直す仕組みが書かれていた。そして、その仕組みを外すことも、同じ場所で決められた。問い直す仕組みは、書かれているだけでは働かない。それを使うかどうかも、また一つの意思決定だ。
そして、もう一つの問いが残る。その成長は、誰のためのものなのか。
会員のためか。株主のためか。いまの選手と観客のためか。それとも、25年後にそのクラブを応援する人たちのためか。将来得られるはずだった収入を、いま使う。その選択は、未来のクラブに何を残し、何を引き受けさせるのだろうか。それが悪いと言いたいのではない。ただ、その問いを、決める人も、問い直す人も、持っていてよいはずだ。
この見方には、弱いところがある。規律を掲げずに上位に立ったクラブもある。基準を守ったから成長したのか、成長したから基準を守れたのかも、分からない。だから、これは答えではなく、クラブを見るための問いとして置いておきたい。
欧州の事実から、問いは具体的になってきた。何を持ち、何に変え、誰が決め、誰が問い直し、何が残るのか。次回は、この問いを、日本の地域クラブに持っていく。
あなたへの問い
あなたのクラブの未来は、誰が決めているだろう。その決定を問い直す仕組みは、どこにあるだろうか。そして、その成長は、誰のためのものだろうか。





