大きな資本を手にしたクラブが、なぜ失速するのか。
前回の記事は、こう締めくくられていた。価値があり、資本も得た。それでも、大きくなれなかったクラブがある。
前回見たLiverpool、Real Madrid、Chelseaは、いずれも後に大きくなったクラブだった。今回は、その反対側を見る。大きな資本を得ながら失速した3つのクラブ、Anzhi Makhachkala、Leeds United、Portsmouthである。
3つのクラブは、失速したあと、まったく違う道をたどった。一つはプロのクラブとしての活動を終え、一つはプレミアリーグに戻り、一つは支持者がクラブを買い取った。
その違いを追っていくと、一つの問いに行き着く。クラブを支える人は、その未来も守れるのか。
1. 失速 ― 3つのクラブに、何が起きたのか
Anzhi Makhachkala ― 一人の資本が、引き揚げられた
Anzhiは1991年、ロシア南部ダゲスタン共和国の首都マハチカラで生まれたクラブである。トップリーグに初めて上がったのは2000年だった。
2011年1月、実業家Suleyman Kerimovがクラブを取得する。ダゲスタン共和国の大統領が、資金面の支援と引き換えに、クラブの株式100%をKerimovに渡したとされる。同じ年、Roberto CarlosやSamuel Eto'oが加わった。Eto'oの年俸は約2,000万ユーロと報じられた。地域の治安上の理由から、チームは主にモスクワ近郊の拠点で生活し、練習していたとされる。
2012/13シーズン、Anzhiはリーグ3位に入り、ロシアカップで準優勝した。その直後の2013年8月7日、Kerimovはクラブの年間予算を約3分の2削減することを決めた。当時の報道によれば、前のシーズンに約1億8,000万ドルを使っていたクラブの予算は、年5,000万〜7,000万ドルになった。その後まもなく、主力12人がクラブを去った。
削減の理由について、説明は一つではない。クラブは「別の道を進む」とし、高額な選手ではなく地元の選手を育てる長期的な戦略を掲げた。収入を大きく超える支出を制限する欧州の規則(Financial Fair Play)を主な理由の一つとする報道がある一方で、クラブの入場料やグッズの収入はごくわずかで、その見方は当たらない可能性が高いとする報道もあった。後者は、Kerimovが株主となっている企業の取引の破談で、本人が約5億ドルを失ったことにも触れている。健康状態をめぐる憶測も流れたが、のちに否定されたと報じられた。Kerimov本人の説明は、今回確認した資料には見当たらなかった。
Leeds United ― 将来の収入を、先に使った
Leedsは、1969年、1974年、1992年にイングランドのリーグで優勝し、1975年には欧州チャンピオンズカップの決勝に進んだクラブである。1919年から、Elland Roadを本拠地にしてきた。
2001年9月、Leedsは6,000万ポンドの債券を発行した。当時の金融業界誌によれば、担保は将来25年間の入場料収入で、資金はスタジアムの改良・拡張と、短期の借入の借り換えに充てるとされた。クラブ史の整理では、この時期、会長Peter Ridsdaleのもとで、クラブは欧州チャンピオンズリーグ出場による収入を見込んで多額の借入をしたとされる。2001年、Leedsはその欧州チャンピオンズリーグで準決勝まで進んだ。
しかし国内リーグでは、2000/01と2001/02の2シーズン続けて、翌シーズンの欧州チャンピオンズリーグの出場権にわずかに届かなかった。2002年7月、主力のRio FerdinandがManchester Unitedへ約3,000万ポンドで移り、その後も主力の売却が続いた。2003/04シーズン、Leedsはプレミアリーグから降格した。
Portsmouth ― オーナーが、何度も代わった
Portsmouthは、1948/49と1949/50にイングランドのリーグを連覇し、1939年にFA Cupを制したクラブである。本拠地Fratton Parkは1899年に開場した。
1999年以降、外部のオーナーがクラブを取得し、2008年にはFA Cupで優勝した。しかし2009/10シーズンのうちに、オーナーが短期間で何度も代わる。2009年12月には、税務当局が未払いの付加価値税をめぐって、クラブの清算を高等法院に申し立てた。2010年2月26日、Portsmouthはプレミアリーグのクラブとして初めて経営破綻の手続き(administration。管財人の管理下に入る手続き)に入り、勝点9を減点された。当時の報道によれば、負債は約1億600万ドルにのぼっていた。2012年2月には、親会社の経営破綻を経て、2度目の経営破綻の手続きに入った。クラブは2013年までに4部まで降格した。
3つの失速に、共通の原因はあるのか
出典が挙げる説明は、クラブごとに違う。Anzhiでは、オーナーが資金を引き揚げ、その理由についての説明は食い違う。Leedsでは、欧州の大会の収入を見込んだ借入と、出場権に届かなかったことが挙げられる。Portsmouthでは、オーナーの頻繁な交代、税の未払い、親会社の破綻が重なった。どれが決定的だったのかを、資料から一つに絞ることはできない。
ただ、並べると一つのことが見えてくる。3つのクラブが資本の時代に頼った資金は、いずれも、クラブ自身のその年の収入とは別のところから来ていた。Anzhiでは一人のオーナーの資金、Leedsでは自分たちの将来の入場料収入を先に使う債券と借入、Portsmouthでは入れ替わるオーナーの資金だった。とはいえ、前々回の記事で見たとおり、大きくなったクラブも外からの大きな資本を得ている。資金の出どころだけで、失速を説明することはできない。
2. その後 ― 3つのクラブがたどった道
Anzhi ― プロとしての活動を終えた
2013/14シーズン、Anzhiは最下位で降格した。1シーズンでトップリーグに戻ったものの、2016年12月、Kerimovはクラブを手放した。2019年には、選手とスタッフへの賃金の未払い(100万ドル超)を理由に、翌シーズンのライセンスを得られなかった。2022年6月、ロシアサッカー連合は3部相当のリーグのライセンスを交付せず、Anzhiはプロとしての活動を終えた。その後は、アマチュアのリーグで活動しているとされる。
Leeds ― スタジアムを手放し、オーナーが代わり、戻ってきた
2004年、地元の実業家のグループがクラブを取得し、負債の削減を進めた。この年、財政難の中で、Elland Roadは売却された。クラブはその後もElland Roadを本拠地として使い続けたが、資本が入る前から本拠地だったスタジアムは、クラブの所有から離れた。2005年には、前回の記事のChelseaの章に登場したKen Batesがクラブを取得した。
2007年5月、Leedsは経営破綻の手続きに入り、クラブ史上初めて3部に降格した。勝点の減点も重なった。その後、オーナーは何度か代わる。
スタジアムが戻る道のりは、一度では終わらなかった。クラブの発表によれば、2017年、Elland Roadは、当時のオーナーAndrea Radrizzaniの側の会社で、クラブの親会社だった会社が買い取った。2020年12月には、スタジアムを持つための別の会社に移された。2023年7月、米国の投資グループ49ers Enterprisesが、クラブとこの会社の両方の支配権を得る。そして2024年3月、スタジアムを持つ会社がクラブの傘下に移された。クラブは、2004年以来初めて、スタジアムを完全に自らの管理下に戻したと発表している。
その間に、Leedsは2020年にプレミアリーグへ戻り、降格と再昇格を経て、執筆時点(2026年10月)でもプレミアリーグで戦っている。
Portsmouth ― 支持者がクラブを買い取り、そして次のオーナーを選んだ
2度目の経営破綻のとき、Fratton Parkはクラブのものではなかった。報道によれば、スタジアムは債権者側の会社が保有しており、その評価額をめぐる争いは、高等法院での審理の途中で和解に至った。2013年4月10日、支持者の団体Pompey Supporters' Trust(PST)が、クラブを取得した。Portsmouthは、国内最大のファン所有クラブになるとされた。
当時の報道によれば、クラブは2014年9月、公式サイトの声明で、すべての負債を返済したと発表した。2017年、Portsmouthは4部で優勝する。同じ年の5月、PSTは株主投票を行い、元Disney CEOのMichael Eisnerが率いる会社Tornanteへのクラブの売却を、80.3%の賛成で承認した。承認には75%が必要だった。Portsmouthは2024年に3部で優勝し、執筆時点(2026年10月)では2部で戦っている。
3. 再建 ― ファン、資本、経営は、何を担ったのか
3つのクラブのファンは、それぞれ何をしたのか。観客の数だけでなく、記録に残る具体的な行動を見ていく。
Anzhiのファンは、資本が入る前からスタジアムに来ていた。Wikipediaの集計によれば、Kerimovが来る前の2010年の平均観客数は11,307人で、試合ごとの記録にも1万2千〜1万5千人規模の試合が残っている。資本の時代の2011-12は14,172人、2012-13は13,415人だった。2019年の報道では、ホームの観客は3,000人を超えることがまれで、ファンクラブの会員は約300人とされる。同じ報道には、クラブを死なせないでほしいとKerimovに訴える支持者の声が記録されている。支持者がクラブの取得や経営への参加を組織的に試みた記録は、今回調べた英語の資料の範囲では見つからなかった。それが、試みがなかったことを意味するのか、記録に届いていないだけなのかは、わからない。
Leedsのファンは、まずスタジアムに来続けた。3部で戦った2007/08シーズンも、Wikipediaの集計によれば、リーグ戦のホーム平均観客数は26,040人だった。そして、声も上げた。当時の専門誌によれば、2012年、5,000人を超える会員を持つ支持者の団体Leeds United Supporters' Trust(LUST)は、主力の売却が続くことに疑問を呈し、試合前に抗議の行進を行った。2015年には、支持者のグループLeeds Fans Unitedが当時のオーナーからの株式の取得を目指し、予備的な合意に達したと発表した。しかし取得は実現せず、2017年にクラブの全株式を得たのは、別の投資家だった。
Portsmouthのファンは、クラブそのものを引き受けた。PSTは2009年12月、クラブの財政を心配する支持者の集まりから生まれた。当時の報道によれば、2,300人を超える支持者が1口1,000ポンドを出し、約250万ポンドが集まった。PSTはクラブの株式の半分をわずかに下回る分を持ち、残りは、個人で資金を出した支持者たちが持った。2017年の売却では、出資者は1,000ポンドの返還を受けるだけで、利益は得なかったと報じられている。
| Anzhi Makhachkala | Leeds United | Portsmouth | |
|---|---|---|---|
| 危機の時に確認できる支え | 観客(2019年は3,000人前後と報道)。存続を訴える支持者の声 | 3部でも平均2万6千人の観客。5,000人超の支持者の団体 | 4部でも平均1万5千人の観客(2013/14)。2009年に生まれた支持者の団体 |
| 記録に残るファンの行動 | オーナーへの訴え(報道)。組織的な取得・参加の記録は、英語の資料の範囲では見つからない | 観戦を続ける。抗議の行進(2012年)。株式取得の試み(2015年、実現せず) | 出資してクラブを取得(2013年)。売却を投票で決める(2017年) |
| 資本 | オーナー一人の資金。2013年に縮小、2016年に手放す | 地元の実業家(2004年)、その後の複数のオーナー。スタジアムは親会社側が取得(2017年)、クラブの傘下へ(2024年) | 支持者の出資(2013年)。外部オーナーへ(2017年) |
| 経営の判断を担った主体 | オーナー | 地元の実業家のグループ、その後の歴代オーナー | 支持者の団体が中心となって所有したクラブ(2013〜2017年)、その後は外部オーナー |
| 結果(執筆時点) | プロとしての活動を終えた | プレミアリーグ | 2部 |
並べてみると、どのクラブにも、危機の中でクラブを気にかける人々がいたことがわかる。LeedsとPortsmouthでは、下位のリーグに落ちても多くの観客が通い続け、支持者が組織をつくって行動した記録が残っている。Anzhiでも、存続を訴える声は報じられている。違ったのは、その支えが、どんな行動にまで届いたか、そして、その行動がクラブの経営とどう結びついたかである。
4. SIM's EYE ― 支える力と、導く力
ここで、二つの力を分けて考えたい。前々回の記事では、クラブを誰が持ち、誰が決め、誰が実行するのかを分けて見た。今回は、その仕組みの外側にいるファンも含めて、クラブの未来に関わる力を見ていく。
一つは、クラブを支え続ける力である。スタジアムに通い、チケットを買い、声を上げ、危機のときに資金を出す。ここでは、これをSUPPORTと呼ぶ。
もう一つは、クラブを再建し、成長させるために、経営の判断を行い、実行する力である。誰がお金を出し、何に使い、誰に任せるかを決める。これをDIRECTIONと呼ぶ。
3つのクラブを見ると、この二つは、はっきりと別の力だった。Leedsのファンは、スタジアムに通い続け、組織をつくり、抗議をし、株式の取得も試みた。それでも、クラブの再建を方向づけたのは、歴代のオーナーの資本と経営だった。スタジアムを買い戻し、クラブのもとへ戻したのも、オーナーの側である。危機のときに支えるファンがいることと、クラブを適切に経営できることは、別の問題だった。
そのうえで、SIM編集部は、もう一歩踏み込んで考えたい。
クラブがファンを増やすことと、クラブを支える人を育てることは、同じではない。
観客の数や熱量は、クラブの力の一部である。けれど、それだけでは、危機のときに何が起きるかはわからない。Anzhiには、資本が入る前から1万人を超える観客がいて、資本の時代にはさらに増えた。それでも、私たちが確認できた記録の中で、その支持が組織的な行動として現れた跡は見つからなかった。一方、Portsmouthの支持者は、2,300人を超える出資でクラブを引き受けた。数の大きさと、必要なときに行動が生まれる関係は、同じものではないのではないか。
SIM編集部は、クラブの強さは、ファンの数だけでなく、ファンとどんな関係を築いてきたかに表れるのではないかと考えている。ここでいう関係とは、クラブの価値観を理解し、自分たちで関わり、必要なときには具体的に行動し、ときには異議を唱えることも含んだ関係である。
そして、この関係は、クラブを経営することとは違う形で、未来に関わる。Portsmouthの支持者は、2017年、自分たちの投票で、クラブを外部のオーナーに渡すことを選んだ。報道によれば、新しいオーナーの提案には、さらに1,000万ポンドの投資が含まれ、そのうち少なくとも500万ポンドはFratton Parkの修繕に充てるとされた。PSTが売却を投票にかけた理由は、今回確認できた公開資料からは読み取れなかった。それでも、ここから一つの見方が生まれる。支える人は、自分たちで経営を担い続けなくても、誰にクラブを導いてもらうかを選ぶことで、未来に関わることができる。
これは、3つの事例から導いたSIM編集部の仮説であり、証明された因果関係ではない。
限界もはっきりしている。Anzhiの支持者の行動については、ロシア語の資料を調べておらず、記録の空白が実際の空白なのかはわからない。地域の事情、チームが主にモスクワ近郊で生活していたこと、資本が引き揚げられた理由がわからないことなど、ほかの要素も重なっている。イングランドの2つのクラブと、同じ物差しで比べることはできない。Portsmouthで支持者がクラブを取得した過程には、管財人の手続きや、スタジアムをめぐる和解も関わっていた。そしてLeedsは、ファンによる所有なしにプレミアリーグへ戻った。ファンによる所有は、再建の唯一の答えではない。
では、クラブを支える人は、その未来も守れるのか。
SIM編集部の答えは、こうだ。支える人だけで、クラブの未来を守れるわけではない。お金を集め、使い道を決め、組織を動かす力は、別に必要になる。けれど、危機のときに、クラブを手放さずにいられる人、そして誰に未来を託すかを選べる場所に立てる人は、日頃からクラブとの関係を築いてきた人なのではないか。Leedsの支持者は株式の取得を試みたが、その場所には立てなかった。その違いが何によって生まれたのかは、今回の資料からは言い切れない。ただ、その関係は、危機が来てから急につくれるものではないのかもしれない。
5. その関係は、小さいうちから育てられるのか
ファンとクラブの関係は、危機が来てから生まれるものなのだろうか。PortsmouthのPSTが正式に生まれたのは2009年12月、2010年の経営破綻の2か月前だった。LeedsのLUSTが声を上げたのは、クラブの選択に疑問を持ったときだった。
そうした関係は、クラブがまだ小さいうちから、新しいファンとともに学び、ともに育てていけるものなのか。今回の3つのクラブからは、その答えまでは見えない。
では、巨大クラブほどのリソースを持たないクラブは、手元にあるもの、そこに集まる人との関係も含めて、何を何に変えて成長してきたのか。
次の記事では、そうしたクラブを見ていく。
あなたへの問い
あなたが関わるクラブが、明日、大きな危機に直面したとしたら。
スタジアムに来てくれる人は、どれくらいいるだろう。そして、そのなかに、クラブと一緒に考え、行動し、ときには異議を唱えてくれる人は、何人いるだろうか。






