2024年、日本のプロ野球にはのべ2668万人が足を運んだ。前年から約6%増え、コロナ禍前の水準を上回った。

Jリーグやバスケットボールも含めれば、週末ごとに全国のスタジアムやアリーナへ、数十万人規模の人が向かっている計算になる。

けれど、その人の流れは、スタジアムの外側までたどり着いているのだろうか。

チケットを買い、飲食を楽しみ、グッズを手にする。試合が終われば、駅へと向かう。その動きは、街の消費とどこかでつながっているはずだ。だが、「つながっている」と言い切れるだけの、共通のデータは、実はまだ整っていない。

本記事は、Issue #002の最初の記事である。テーマは、経済という条件から見た共創だ。

Issue #001では、スポーツを起点に生まれるさまざまな関係を見てきた。ファンとクラブ、選手と地域、そこに生まれる感情のつながりだ。

Issue #002では、その関係が地域へ広がるとき、人だけでなく経済はどう動くのか、を問い直す。答えのない問いから、始めたい。

「経済効果」という数字の、その先が見えない

各地のスタジアムやクラブは、しばしば「経済効果〇〇億円」という数字を発表する。

たとえば広島経済大学は、2024年12月に行われたサンフレッチェ広島対北海道コンサドーレ札幌戦、この1試合を対象に、周辺への経済効果を約11億円と推定した。

長崎スタジアムシティについては、開業前の2024年7月時点で、年間の経済波及効果が963億円にのぼるという試算が示されている。これは実績ではなく、開業前の見込みである。

エディオンピースウイング広島の開業がもたらした価値については、中国財務局による試算で1161億円以上という数字も報じられている。ただし、この財務局は2023年時点にも別の試算(合計で約1060億円)を示しており、算出の時期や条件が完全には一致しない。

これらの数字は、それぞれの地域が、それぞれの方法で算出したものだ。対象とする試合、期間、含める産業の範囲が違えば、単純に比べることはできない。

つまり、「経済効果」という言葉は各地で使われていても、それを測る共通の物差しは存在しない。

このこと自体は、スタジアムの経済効果が小さいことを意味しない。むしろ大きな数字が、いくつも報告されている。

問題は、その数字の中身が、どこまでスタジアムの外に及んでいるのかが、見えづらいという点にある。

チケットとグッズと場内飲食で完結する消費と、駅前の商店や宿泊施設に流れる消費。その内訳を、同じ基準で示した全国的なデータは、まだない。

共通の物差しで経済的接続を捉える仕組みが、十分に整っていない。これが、この記事の出発点である。

人の流れは、お金の流れと重なっているか

試合開始前、どれだけスタジアム周辺に滞在するかで、消費額は変わるという調査がある。

インテージと日本経済研究所、NTTドコモが川崎フロンターレを対象に行った分析(2024年3月〜10月)によれば、試合開始の30分以上前からスタジアム周辺に滞在していた人は、試合直前に到着した人に比べて、決済額がおよそ2倍だったという。

これは、試合後に街へ流れ込むファンの話ではない。試合前、少し早く着いて、街を歩く人の話だ。

早く着けば、店に入る時間が生まれる。当たり前のようだが、この当たり前を、データが裏づけている。

一方で、この調査は川崎という一つの事例に限られる。全国のスタジアムで、同じ傾向が見られるかどうかは、まだわからない。

試合前に早く来る人を増やせるかどうか。それは立地やアクセス、周辺の店舗の魅力に左右される。街の側の準備がなければ、早く来ても消費先がない、ということでもある。

人の流れをお金の流れに変えるには、スタジアムの外にも、受け皿が要る。

街なかという条件を、広島は生かした

2024年2月に開業したエディオンピースウイング広島は、広島市中心部、紙屋町・八丁堀から徒歩圏内に建つ。

かつて郊外に置かれることが多かった日本のスタジアムの中で、これは珍しい「街なかスタジアム」だ。

開業後、サンフレッチェ広島の売上高は、前年の約42億円から約78億円へ、約1.86倍に伸びた。ホームゲームの入場率は90.3%、クラブ史上最も高い数字になった。

立地の力は大きい。試合前後、観客は自然と、紙屋町や八丁堀の飲食店や商業施設のそばを通ることになる。

ただし、その人の流れが、周辺の店とどれだけ具体的に結びついているのか。割引の連携や、共同のイベントといった仕組みが、どこまで整っているのかは、公開されている情報だけでは判断できない。

立地という条件は、広島に大きな恩恵を与えた。だが、それを仕組みとして深めていく作業は、まだ途上にあるように見える。

複合という設計を、長崎は選んだ

長崎スタジアムシティは、性格の異なる道を選んだ。

試合の有無にかかわらず、人が集まる場所を作る。それが長崎の狙いだった。

2024年10月に開業したこの施設は、V・ファーレン長崎の本拠地でありながら、ホテルや商業施設、アリーナを併せ持つ複合施設として設計されている。総工費は900億円を超えるとされる(報道によっては1000億円規模とするものもある)。

開業から1年で、来場者は485万人にのぼった。運営側は年間850万人の利用を見込んでいるという。

経済波及効果については、開業前の2024年7月時点で、年間963億円という試算が示されていた。この数字は、開業後の実績ではなく、あくまで事前の見込みである点に留意したい。

複合施設という設計は、試合のない日にも、施設に人を留める仕組みを作った。だが、その人の流れが、施設の外、長崎の中心市街地までどれだけ広がっているのかは、開業からまだ日が浅く、判断するには材料が足りない。

まだ答えを出し切っていない、二つの街

広島は、立地という条件を生かした。長崎は、複合という設計を選んだ。

どちらも、方法は違う。だが、共通しているのは、まだ答えを出し切ってはいない、という点だ。

大きな経済効果の数字は、いくつも存在する。けれど、その数字がスタジアムの外へどれだけ広がっているのか、共通の基準で確かめる方法は、まだない。

内訳が見えなければ、何がうまくいっていて、何が足りないのかも、判断がつきにくい。

人が集まる力は、すでに数字に表れている。問題は、その先だ。

集まった人の消費が、街のどこに、どれだけ流れているのか。それを知ろうとすること自体が、地域とスタジアムの関係を、少しずつ変えていくのかもしれない。

あなたへの問い

あなたの街のスタジアムやアリーナでは、集まった人の消費が、どこまで見えているだろうか。