試合が終わった夜、駅前の小さな定食屋の暖簾をくぐる。

カウンターには、まだユニフォーム姿の客が数人。壁には、地元クラブのポスターが貼られている。

「今日、勝ちましたね」。店主が声をかける。「ですね」。客が笑う。

会計を済ませると、レシートの隅に、見慣れない小さなロゴが一つ、添えられている。

何のロゴか、店主に聞く客はいない。客は、それを気にも留めず、店を出ていく。

けれど、そのロゴには、意味がある。

循環という言葉は、掲げるだけでは動かない

「モノではなく、循環によって、社会は豊かになる。」

スポーツエンターテイメント株式会社、SPOENは、そう考えている。

だが、この考え自体は、目新しいものではない。地域経済も、循環型社会も、これまで数えきれないほど語られてきた言葉だ。

言葉として掲げるだけなら、誰にでもできる。むずかしいのは、その先だ。循環は、絵に描いただけでは、一円も動かない。どこかに、実際にお金が流れる管を、誰かが一本ずつ通さなければならない。

さっきのレシートのロゴは、その管の断面だった。

FOOD BALLという、最初の実践

その管に名前をつけるなら、FOOD BALLと呼ぶ。SPOENが運営する、飲食店とスポーツクラブをつなぐ仕組みだ。

飲食店とスポーツクラブは、ふだん、競い合う関係にはない。だが、放っておいても、自然につながるわけでもない。誰かが、それを実践しなければ、思想は思想のままで終わる。

FOOD BALLは、その最初の実践にすぎない。

さっきの「今日、勝ちましたね」というひと言も、会計を抜けていった小さなお金も、その実践の中で起きている。

思想は、ようやく一つの現場で、一枚のレシートの上で、お金の流れになり始めている。

今、48の店舗が、この実践に加わっている。そこから、地域には3,200万円の消費が生まれたという(SPOEN社内資料による。外部機関による検証は経ていない)。

まだ、小さい

数字だけを見れば、悪くない滑り出しに見えるかもしれない。

だが、正直に言えば、この実践は、まだ小さい。48という数字は、日本にある飲食店全体からすれば、点にすぎない。

「地域から始める」と掲げるのは簡単だ。だが、その言葉通りの規模になるまでには、まだ長い距離が残っている。

同じ思想は、次の挑戦にも向かっている。空き家を宿泊施設に変え、地域を離れた元アスリートたちに、新しい役割を渡す、TRAVEL BALLという構想だ。だが、こちらは、まだ最初の一歩を踏み出したばかりだ。

一つの思想から、複数の実践が生まれようとしている。だが、そのすべてが、同じ速さで動いているわけではない。

だから、次の挑戦が始まる

FC今治が10年かけて実証したのは、一つの街に、共助のコミュニティを育てるという構造だった。Common Goalが示したのは、世界中に散らばる小さな挑戦を、一つのネットワークとしてつなぎ直すという構造だった。

FOOD BALLという実践が今、証明しようとしているのは、その同じ構造が、日本の、ごく普通の飲食店の会計の中にも、実装できるかもしれないという、まだ途中の可能性だ。

証明は、終わっていない。この実践は、いつか大きくなるかもしれないし、ここで止まってしまうかもしれない。

それでも、思想は、確かに動き始めている。