同じ言葉、違う関係
「スポンサー」という言葉を、私たちは知っているつもりでいる。
企業がお金を出す。スポーツ組織がロゴを掲出する。それだけの関係だと思っている人も多いだろう。最近は「共創型スポンサーシップ」という言葉も聞くようになった。古い広告の関係が、新しい共創の関係へ進化しているのだと。
だが、実際に企業とスポーツの関係を一つひとつ調べていくと、その理解はどうも足りない。
同じ「スポンサー」という言葉の下で、企業がスポーツに求めているものはまるで違う。新しい顧客に出会いたい企業もある。技術を試したい企業もある。ブランドを浸透させたい企業もある。そして、ときにその関係は終わる。
関係の形は、契約書に書かれた名前が決めているわけではない。そこに関わる人たちが、何を持ち寄り、何を実現しようとしているか。それが、関係の形を決めていく。
これは、企業とスポーツのあいだで何が起きているのかを、いくつかの事例を通して見ていく記事である。
目的の違いが、関係の深さを変える
福岡のプロサッカークラブ、アビスパ福岡と、デジタルバンクのみんなの銀行は、2022年から関係を結んでいる。みんなの銀行の目的は明確だ。新しい顧客との接点をつくりたい。
二社は「Cheer Box」という金融商品を共同で設計した。ファンがクラブを応援しながら使える口座だ。2024年には、この仕組みを通じて586,359円の支援金がクラブへ渡っている。
数字としては大きくない。だが重要なのは金額ではなく、目的の一致だ。みんなの銀行は顧客を増やしたい。アビスパは支援を受けたい。両者の利害が重なる範囲で、関係がつくられている。
一方、日本ブラインドサッカー協会と、ソフトウェア開発会社のソニックガーデンの関係は、少し違う様相を見せる。2015年ごろから続くこの関係で、二者は視覚障害のある選手たちのためのアプリケーションを、共に開発してきた。
ここでは「企業がスポーツを支援する」という一方向の構図が、あまり当てはまらない。実際に何に困っているのかを、開発者は選手たちから直接聞く。選手たちは、自分たちの経験を技術者に伝える。開発は、双方の関与なしには進まない。
目的が重なっているだけでなく、互いの持っているものがなければ、その先に進めない。この違いが、関係の深さを変えている。
深く結びついた関係で、何が起きているか
ソニックガーデンと日本ブラインドサッカー協会の関係をもう少し見てみたい。
この関係で生まれた価値は、どちらか一方のものではない。選手たちにとっては、生活を支える道具が手に入る。企業にとっては、実際の使用者の声から生まれる技術的な知見が手に入る。どちらもこの関係がなければ得られなかったものだ。
これは「企業がスポーツに何かを与える」関係ではない。目的が一つになり、互いに依存し合いながら、新しいものを一緒につくっていく関係だ。
もしこの記事が「共創とは何か」を定義しようとするなら、この事例がもっとも近い姿を見せてくれる。ただ、それを「共創こそが正しい関係だ」と読むのは早い。
結びつかなくても、続く関係がある
コカ・コーラとIOC(国際オリンピック委員会)の関係は、1928年から続いている。90年を超える、企業とスポーツの関係としては、とても長いものだ。
今回確認した公開資料の範囲では、ソニックガーデンの事例のような、双方が互いの知識や資源に依存しながら何かを共同で生み出す構造は確認できなかった。コカ・コーラの目的は、市場への浸透とブランドの認知だ。世界中の人が見るオリンピックという舞台で、自社の商品を見せ続ける。それだけの、しかし十分に合理的な関係だ。
この関係を「共創ではないから未成熟だ」と評するのは、正しくないだろう。90年を超えて関係が続いているという事実は、少なくとも「共創的でなければ長く続かない」とは言えないことを示している。企業がスポーツに求めるものが「広告としての価値」であるなら、その目的にとって、この関係は十分に機能してきた。
「共創」という尺度を当てはめると、この関係は測れない。だが、それは共創という尺度の限界を示しているのであって、この関係が劣っていることを意味しない。
続いた関係が、終わるとき
長く続いた関係も、いつか形を変える。
パナソニックホールディングスとIOCの関係は、1987年から2024年まで、37年間続いた。この長い関係が終わった理由は、テレビやプロジェクターといった事業を売却したことによる。オリンピックという舞台と、自社の事業とのあいだにあった重なりが、事業構造の変化によって消えていった。
これは「共創できなかったから終わった」わけではない。企業の事業そのものが変わったから、関係の前提も変わった。
トヨタとIOCの関係は、2015年から2024年まで、10年間続いた。終わった理由は、パナソニックとはまったく違う。大会運営が本当にアスリートファーストなのか、スポンサー資金がどう使われているのかといった、五輪の運営姿勢への問題意識だったと、豊田章男会長が公に語っている。ただしパラリンピックへの支援は、その後も続いている。
同じ「撤退」という結果でも、その内側にある理由は一つではない。事業の変化。価値観の齟齬。関係の終わり方にも、複数の論理がある。
これを「共創の失敗」と呼ぶのは、Researchの結果とは合わない。関係が終わることは、企業が置かれている状況が変わったことの、一つの表れにすぎない。


