世界には、まだ名前も知らない挑戦がある。
201の団体。117の国と地域。
世界中で、別々に始まった挑戦が、いま、一つのネットワークにつながっている。
一つのクラブの物語でも、一つの街の物語でもない。
「点」に、初めて名前がついた日
1994年。アメリカで行われたワールドカップで、コロンビア代表のアンドレス・エスコバルは、オウンゴールを記録した。大会後、帰国した彼は銃撃を受け、命を落とした。
当時、コロンビア・メデジンでスポーツと地域社会の研究に携わっていたとされるドイツ人、ユルゲン・グリースベックは、この事件を通じて、フットボールが社会の分断を映し出す力と、分断を癒す力の両方を持ちうることを目の当たりにしたという。
コロンビアでの活動を経て、2002年、グリースベックは「streetfootballworld」という団体を立ち上げる。単発の団体としてではなく、「フットボール・フォー・グッド」に取り組む世界初のネットワークとして構想されたものだった。
「1%」が、もう一つの共創を始めた
2017年、このネットワークは、もう一つの挑戦を始める。選手やクラブ、ブランドが、収入や影響力の1%を、草の根の現場に還元する——「Common Goal」という約束だ。
呼びかけたのは、当時マンチェスター・ユナイテッドに所属していたスペイン代表MF、フアン・マタだった。
マタは、最初から仲間に囲まれていたわけではない。他の著名な選手との発表を思い描いていたが、集まらなかった。後に、こう振り返っている。
「違う名前の選手や、もっと多くのチームの選手に加わってほしかったのではと聞かれることがある。それは事実だ。」
「私は一人で発表して、誰かが続いてくれることを願った。」
「もっと多くの人が加わってくれたらと思う時期もあった。それでも、実際に加わってくれた人たちに、目を向けるようにしている。」
なぜ、それほど仲間集めに苦労したのか。同じ2017年、グリースベックはこう説明している。
「今も、ほとんどの選手の周りには大きな『保護壁』がある。」
「人々は、選手が自分の行いについて実際に考えることを、避けさせようとする。」
グリースベックによれば、マタはスペインのテレビで、フットボールはバブルの中にあり現実はその外にある、という趣旨のことを語っていたという。それが、関心を持つきっかけだった。
名前を変えながら、つながり続けた
2021年、streetfootballworldとCommon Goalは、一つの名前——Common Goalへと統合された。名前を変えながら、ネットワークそのものも更新し続けてきた、ということだ。
ただし、統合したから解決した、という話ではない。2022年、グリースベックはこう語っている。
「選手一人を説得するプロセスに、9か月かかることもある。それほど複雑だ。」
「この漸進的なやり方は、遅すぎる。もっと根本的な何かが必要だ。」
コロナ禍の後についても、こう漏らしている。
「機会になると思っていたが、フットボール界はまだそれを掴めていない。」
「フットボール界は、他の手本になるべきで、他よりも速く動くべきなのに、ただ遅すぎる。」
これは、成功した創業者による回顧録ではない。今、この瞬間も続いている苛立ちである。
それでも、増え続けている点
それでも、点は増え続けている。
2026年8月時点で、Common Goal公式サイトによれば、このネットワーク(Common Goal Community)は201団体・117の国と地域に広がる。世界中で12,000人以上が活動に携わり、プロアスリートの参加者は200人を超える。年間360万人の若者がプログラムに参加し、900万人以上に活動が届いているという。
このうち、選手・コーチ・クラブ・ブランドが実際に収入や影響力の1%を拠出する「1%プレッジ」の枠組みでは、500以上の個人・団体が誓約し、これまでに114の団体、20のプロジェクトを支援してきた。動員された金額は、1,500万ユーロ以上にのぼる。参加の形は選手だけではない。あるスポーツ用品ブランドはサッカーボール売上の1%を、ある放送局はワールドカップ報道枠の1%を差し出している。
参加団体の一つに、レソトを拠点とするKick4Lifeがある。2005年、Steve FlemingとPete Fleming兄弟によって設立され、2014年には男子チームがレソト・プレミアリーグに昇格した。国内トップリーグに所属するクラブでありながら、保健教育や自立支援のプログラムを併せて運営し、現在はCommon Goalの「Equal Play Effect Africa」プロジェクトで、南部アフリカ地域のハブにも選ばれている。似たような挑戦をしている場所は、世界のどこかに、他にもある——その一例である。
共創の、もう一つの構造
共創には、いくつかの形がある。
一つの場所に、異なる立場の人たちが、時間をかけて集まっていく形が、その一つだ。
このネットワークが見せているのは、少し違う構造である。
共創の構造(Common Goalの事例より)
- つなぐことを育てる
- 点と点をつなぐことそのものを育てる、進行中・未完成の共創(“共創の共創”)
- 草の根の団体
- 201団体・117の国と地域に広がるネットワーク
- 選手・クラブ・ブランド
- 500以上の個人・団体が、収入や影響力の1%拠出を誓約
- Common Goal
- 旧streetfootballworldから続く、活動の結節点
- その構造自体
- 名称を変え、統合を重ねながら更新を続けてきたネットワークのあり方そのもの
一つの場所に人が集まるのではない。すでに別々の場所で、それぞれの共創を続けていた無数の点を、また別の共創の形でつなぎ直す。点は、また別の点へとつながっていく。




